これまでディズニーランドを舞台に、アナタ自身がサービスを楽しむためのさまざまなヒントときっかけづくりについて、お話ししてきました。これらを読んでアナタは、心のどこかで「あ~、ディズニーランドで働けたらいいなぁ」と思っているかもしれません。
たしかにディズニーランドという職場には、スタッフが楽しんでサービスをできるように、綿密につくりこまれた施設やバックグラウンドストーリーが存在しています。サービスパーソンとしてうらやむべき点の多い、非常に工夫された職場ですよね。
ですが、ここで見落としてはならない点があります。
「施設やバックグラウンドストーリーを綿密につくりこむ」という「こだわり」が、ディズニーランドには計りしれないほどの数、存在しているってことにお気づきでしょうか。そりゃもう、ものすんごい数ですよ。
ディズニーランドには、アトラクション、ショップ、レストランすべてあわせて約150の施設があります。その施設の数だけ、施設へのこだわりが存在するということです。さらにバックグラウンドストーリーへのこだわりとなると、施設の数以上になります。
しかもディズニーランドは「永遠に完成しない国」です。ディズニーランドの生みの親であるウォルト・ディズニーが、そういっているのです。人々にイマジネーションがあるかぎり、ディズニーランドはずっと成長し続けると。
その言葉どおり、リニューアルなどで変わっていくアトラクションや施設が、ほぼ毎年のように出てきます。
そのたびに必要になるんですよ、アレが!
そう、すべてのお客様にハピネスを提供するための「知識」が、です。
だんだん、私がいいたいことがわかってきましたかね。
そうなんです。いくら素晴らしい施設やバックグラウンドストーリーが用意してあっても、スタッフがそれをきちんと覚え、自分のサービスのために使いこなせていなければ、意味がないってことなんですよ。
ディズニーランドのキャストは、配属されたアトラクションやショップ、レストランの施設やバックグラウンドストーリーについて、最初はトレーナーさんから細部までしっかりと教えてもらいます。
それを自分で一生懸命覚えるよう努力する一方で、お客様からは毎日のように「近くのトイレはどこ?」「なんであの岩だけ色が違うの?」「なんかこの乗り物の秘密ってない?」なんて質問を受けます。そのたびに確認したり調べたりすることが予習や復習となり、そのうちに、どんな質問を受けてもじゃんじゃん答えられるようになってきます。
こうして、その施設のキャストとしてどんどん自信をつけていきます。
ちなみに、ディズニーランドには看板がほとんどないって、ご存じでした? あれって、お客様とキャストがコミュニケーションをとる機会をより多くつくるために、意図的にそうしているんです。
話を戻してっと。
毎日の予習・復習・実践で、自分の担当している施設についてはもう完璧! お客様に何を聞かれても大丈夫だし、隠れミッキーの場所だって教えてあげられる~♪となって、キャストとしてやっと半人前です。
そこまで完璧なのに、なぜまだ半人前なのでしょう?
たとえばアナタはビッグサンダー・マウンテンのキャストだとします。いまアナタの目の前には、列に並んでいるお客様、鉱山列車に乗り込もうとしているお客様がたくさんいますが、この方たちは、ビッグサンダー・マウンテンに乗るためだけにディズニーランドに来たのでしょうか。
もちろん、「ビッグサンダー・マウンテンにどうしても乗りたかった!」というお客様はいっぱいいますし、なかにはそのために来園された方もいらっしゃるかもしれません。でも、だからといって「今日はビッグサンダー・マウンテンだけ乗ったら帰ろ~」というお客様は、ほとんどいないでしょう。
当然のことですが、お客様はディズニーランドに遊びに来ているのです!
ディズニーランドに遊びに来ているんですよ!!
2回もいっちゃいましたが、つまりこういうことです。
たしかにアナタは「ビッグサンダー・マウンテンのキャスト」として働いているかもしれません。でも、お客様から見れば「ディズニーランドのスタッフさん」です。
ですから、たとえばビッグサンダー・マウンテンの順番待ちの列の最後尾で待ち時間を記したボードを持って立っているようなときでも、「プーさんの乗り物に行きたいんですけど、遠いですか?」とか、「あのストラップって、どこで売ってるんですか?」「パレードはどこで見られますか?」など、ビッグサンダー・マウンテンとは関係のないこともお客様からいろいろ聞かれるんです。
そういった質問に答えられないシチュエーションを、ちょっとイメージしてみましょう。
せっかくお客様が声をかけてくれたのに、それに応えてあげられない……、どんな気分でしょうか。きっと、あまりいい気分ではないですよね。
ビッグサンダー・マウンテンについては完璧だけど、そこだけでなく他の施設のことも知っていたら、もっともっとお客様にハピネスを提供できたのに、知らなかったために、お客様の笑顔を見るチャンスを減らしてしまったってわけです。
しかも、こういうことが続くとだんだん、お客様から質問されること自体がこわくなってきたりします。「またビッグサンダー・マウンテンとは違うことを聞かれるんじゃないか」と心配になり、「だったらお客様と目を合わせないようにしよう、質問されないようにしよう」という気持ちが生まれてきちゃったりする。こうなってくると、もうサービス自体が「楽しいお仕事」じゃなくなってしまいます。
これはもったいない!
せっかくビッグサンダー・マウンテンのほかにも魅力的な施設やバックグラウンドストーリーがあり、お客様から笑顔をもらえるチャンス、お客様に「ありがとう」といってもらえるチャンスもあるのに、それを活かさないなんて。
「知って」いれば、もっともっとサービスの仕事が楽しくなるのに、「知ろうとしない」から楽しくなれないなんて。
つまり私がいいたいのは、どれだけ立派な施設があっても、そこに魅力的なバックグラウンドストーリーまで用意されていたとしても、働いている人がそれに「興味」を持っていなければ、存在していないのとおなじだ、ということなんです。
興味を持つから、意味や理由を知りたくなります。意味や理由があるから、お客様に喜んでいただけるサービスができます。それが仕事をもっと楽しいものにしてくれます。
でも興味を持たなければ、入口のレッドカーペットは「ただの赤い床」だし、プレジャーアイランド・キャンディーズも「ただのお菓子屋さん」、ディズニーランドだって「ただの遊園地」です。もしキャストがそう思っていたとしたら、ディズニーランドがあんなに楽しい場所になるはずはないし、キャストがイキイキ楽しそうに見えるはずもありません。
だから、興味を持つことが必要だし、大事なんです。アナタのお店に、アナタの仕事に、その背後にあるストーリーに。
では、どうすれば「興味」を持つことができるのか。
「興味」は、「こうなりたい!」というゴールがあるから生まれるものです。ディズニーランドのスタッフも、「すべてのゲストにハピネスを提供する」というゴールがあるから、施設やバックグラウンドストーリーに興味を持つし、覚えたり調べたりします。
そして、興味を持って覚えたり調べたりすると、その姿を評価してくれる仲間や、その結果提供できたサービスを喜んでくれるお客様が出てきます。それが嬉しいから、興味を持ち続け、頑張ることができる!ともいえます。
こうして考えてみると、これまでお話してきた「施設」「バックグラウンドストーリー」「ゴール」「良い職場」はすべて、「興味」というキーワードでつながっていたんですね。
+2026年の補足
本文の「約150の施設」、今はもっと増えています。2020年には、東京ディズニーランド史上最大規模の開発で、美女と野獣"魔法のものがたり"、ベイマックスのハッピーライド、ミニーのスタイルスタジオが仲間入りしました。ウォルトのいう「永遠に完成しない国」が、今も本当に育ち続けているんですね。施設が増えれば、キャストが覚える"知識"も増えていく。ビッグサンダー・マウンテンの外に広がる世界は、年々ひろがっているわけです。興味の種が尽きない職場——うらやましいような、ちょっと大変そうな。
川崎真衣