ディズニーランドでは、キャストどうしで褒め合う、認め合うということを積極的に行なっています。
というより極端な話、ディズニーランドでは人を育てる「教育」のほとんどが、「褒め合うこと・認め合うこと」が中心といってもいいくらいです。そうやってキャストたちのやる気をキープしているんですね。
しかし、前にもお伝えしたとおり、ディズニーランドには約2万人のキャストがいます。この2万人がいっせいに褒め合ったりする環境をつくるには、やはり、そのための仕組みがないとかなり難しいです。
そこでディズニーランドでは、いくつかの「キャストどうしが褒めあい、認め合う仕組み」をつくりました。ここでは、そのうちのひとつ、「褒め合うキャンペーン」を紹介しますね。
ディズニーランドでは1年に1回、約2~3か月間にわたって、キャストどうしで褒め合うというキャンペーンを行なっています。やり方は、こうです。
まず最初に、キャスト全員に「Dカード」という、名刺サイズのカードがひとり10枚ずつ渡されます。Dカードには自分の名前を書くところがあって、10枚すべてに自分の名前を書き込んだら準備OK。あとはこのカードを、褒めたい相手に渡していくんですね。
たとえば、「彼のいまのお客様への対応、すごくよかったな」と思ったら、そのキャストにDカードを1枚渡します。「彼女はいつも、本当に素敵な笑顔を絶やさないよな」と思ったら、そのキャストにもDカードを1枚渡します。
こうやって手持ちの10枚のカードから1枚ずつ、「いまのサービス、すごく良かったです! 頑張ってますね!」という気持ちを伝えたい相手に渡していくんです。
カードをもらった人は、
「うわー、見られてたんだ! 頑張ってよかったなぁ~」
「当たり前にやってたことだけど、そんなふうに見えるんだ!」
と、自分が何気なくしていた行動を褒められて、めちゃくちゃ嬉しくなります。
カードを渡すほうの人も、
「あの人いつもおとなしいから、お客様対応もおとなしい感じかと思ってたら、お客様の前ではものすごい元気じゃん!」
「あー、あういう質問されたときは、そうやって答えればいいんだぁ、ナルホド!」
と、普段は気にしていなかった仲間の働きぶりを見直したり、自分はどうだろう?と自身の行動を再確認するきっかけになったりします。
そう、「意識して褒める」ことのメリットは、単純に「褒められて嬉しい!」と相手をやる気にさせるだけではないんです。
誰かを褒めるためには、一緒に働く仲間をよく観察しなければなりません。よく観察すると、いままで気づかなかった「相手の良いところ」に気づけます。その気づきは、一緒に働く仲間の素晴らしさを再評価し信頼を深めることにもつながるし、「自分はそれをできているか」を見直すきっかけにもなるんです。
う~ん、「褒める」って思っていたより深い!
もちろん、キャスト全員がこのキャンペーンにノリノリか?というと、そうではなかったりもします。なかには「めんどくさいな」とか「あんまり興味ないな」と思うキャストもいます。
しかしおもしろいもので、最初はキャンペーンにそんなに乗り気でない人も、誰かからカードをもらうと、やっぱり嬉しいんですね。その嬉しさを実感すると、「自分も渡せる相手いないかな?」と観察し始めるんです。そしていつのまにか、このキャンペーンにしっかり参加しています。
このように、「誰かに認めてもらえる」ということは、人の心を動かし、行動を変えさせるだけの力を持っている、ということなんですよ。
「でも、だったらカードよりも直接いわれたほうが嬉しいんじゃないの?」
そう、たしかに。
「褒める」という行為の究極形は口頭で直接本人に伝えること。しかし、サービスパーソンとはいえ、もともとはシャイな人が多い日本人。いきなり「『褒め合うキャンペーン』なんだから、どんどん褒めまくれ!」といわれても、なかなかその言葉を口にすることができない人がほとんどです。そのためディズニーランドでは、口頭で伝えるよりも手軽で恥ずかしさの少ない伝え方として、カードが使われています。
このカードを渡すことで、キャストが「相手を褒める習慣」を身につけるだけでなく、「まわりのキャストをよく観察する習慣」も身につけてほしい、というのがねらいです。ですから「褒め合うキャンペーン」が終わったあとも、カードがなくても相手を直接「褒める」ことができるようになっている、というのが理想なんです。
一緒に働く仲間を褒めることができる人は、一緒に働く仲間から褒められる人になります。自分によくしてくれた人、自分を認めてくれた人には、なんらかのかたちでお返しがしたい、という心理が働くからです。
そうやって仲間から褒められると一層、仕事のやりがいや達成感を感じられるので、どんどん仕事が楽しくなっていきます。仕事が楽しくなって気持ちが明るくなると、よりたくさん仲間を褒める気持ちが生まれます。すると、よりたくさん仲間から褒められるようになり……という「褒め合うループ」ができあがってくるんです。
「それはいいなぁ。よしっ! さっそくウチでもカードキャンペーンやってみよう!」
と思っても、現実は、なかなか簡単にはいかないですよねぇ、やっぱり。このキャンペーンは、それこそ会社単位、お店単位でやってもらわないと、ちょっと難しいですし。
では、頑張ったことが褒められる「良い職場」の環境をつくるために、アナタが今日から始められることなんて、ないのでしょうか?
そんなことない! 大丈夫。これまでとおなじです。
始まりはいつも、「自分からできる、ちょっとしたこと」からでしたよね。
+2026年の補足
本文で紹介した"キャストどうしで褒め合うキャンペーン"、今も健在どころか、パワーアップしています。この取り組みは1984年に「コーテシーキャンペーン」として始まり、のちに「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」へ。そして2022年からは「マジカルディズニーキャスト」という名前で、期間限定ではなく一年じゅう続く活動になったと聞きます。仲間の良い行動をカードのメッセージで称え合い、とくに輝いたキャストには、ミッキーの記念ピンが贈られるそうです。形を変えながら、受け継がれている——"褒め合う文化"って、本当に深く根を張っているんですね。
川崎真衣