頼むより、自分でやった方が早い。
後輩にお願いした仕事が、思っていたのと違う形で返ってくる。
直してもらう時間で、自分ならもう終わっている。
かといって強くは言えないし、言い方を間違えれば、辞めてしまうかもしれない。
だから今日も、静かに引き取って、自分でやる。
気づけば、お店でいちばん疲れているのは、あなた。
そんなあなたに、思い出してほしい日があります。
2011年3月11日の、東京ディズニーランド。
あの日、園内にはおよそ7万人のゲストがいました。
大きな揺れのあと、電車は止まり、外の歩道が安全かどうかも分からない。
ディズニーランドは、ふだんゲストが決して入れない裏側の通路を開けました。
そして翌日の夕方までに、7万人を全員、送り出したそうです。
マニュアルどおりでは動けない日でした。
それでも現場は、自分で考えて動いた。
そして、あの日現場に立っていたキャストの多くは、正社員ではないアルバイトのスタッフでした。
なぜ、任せられたのか。
答えは、特別な人を集めたからではありません。
ディズニーは、手順より先に「なぜ」を渡すからです。
新人キャストが最初に教わるのは、細かい手順ではなく「ゴール」だと言われます(キャストが最初に教わるゴールの話は、→3-2に詳しく書かれています)。
迷ったときに戻る優先順位もあります。行動規準「The Five Keys」、その最初の鍵は「安全」。
先輩が後輩を育てるトレーナーの仕組みがあり、防災訓練は年におよそ180回。
つまり「任せる」とは、放り出すことではなくて。
判断の材料を、先に渡しておくこと。
裏返せば、あなたが任せられないのは、冷たいからでも、器が小さいからでもありません。
「何を、どうやるか」は渡していても、「なぜ」を渡しそびれているだけ。
なぜを知らない仕事は、途中で迷っても、自分で決められません。
だから手が止まるか、想像で埋めるか。
仕上がりがズレて、あなたのところへ戻ってくるんです。
だから、明日ひとつだけ試すとしたら。
仕事を頼むとき、手順の前に「なぜ」をひとこと添えてみてください。
たとえば、「ここは、お客様が最初に目にする場所だから」。
それから、思い出してほしいことがもうひとつ。
あなたにも、教わる側だった頃があります。
初めて任された日。怖くて、でも、嬉しかったはずです。
あの日のあなたに任せてくれた人が、いたように。
いま、あなたの後ろには、あの日のあなたと同じ顔をした後輩が立っています。
「自分でやった方が早い」は、今日はたしかに早い。
でも「なぜ」をひとこと渡すたびに、隣に「一緒に考えられる人」が増えていきます。
7万人を送り出したのは、特別な誰かではなく、任された人たちでした。
そして、十年後。
誰かが「初めて任された日」を思い出すとき、その記憶の中に立っているのは、あなたです。