ディズニーランドのハッピーサイクル研修+

この章も、いよいよ最後の項に来ました。ここでおさらいです。

ディズニーランドのスタッフのことを「キャスト」と呼ぶのは、彼らが「バックグラウンドストーリー」という名の台本に基づいてショーを「演じる人」だから、でしたね。

サービスの仕事を「ショー」と考えることで、意味もなく笑顔をつくったりお辞儀をしたりするのではなく、そのバックグラウンドストーリーを理解して、意味のある笑顔やお辞儀をする。その「役を演じる人」になりきる。だから行動に気持ちの揺れが出にくく、いつも「楽しく働いているように見える」のでした。

この考え方、やり方は、ディズニーランドでなければできない、というわけではありません。アナタも「アナタのお店のキャスト」になれるんです。

では、アナタが「キャスト」としてお店で「ショー」を演じるための台本は、どこにあるのでしょうか。

そのヒントは、アナタのお店が扱っている商品や、お店の名前、着ているユニフォームのテーマに隠されています。

商品はもちろんのことですが、お店の名前やユニフォームも、なんとなくそうなったわけではありません。どんな商品を扱うか、なんという店名にして、どういうユニフォームを着て働くか、お店のオーナーがう〜んと頭をひねって考えた結果そうなったのです。

ですからそこには、このお店がどうありたいか、どうなってほしいかという想いがギッシリ詰まっています。

それこそが、お店のバックグラウンドストーリー。
アナタのお店にしかない台本なんです。

せっかくですから、ディズニー以外でふたつほど、例をあげてみましょう。まず最初は、誰もが一度は足を運んだことのある有名ハンバーガー専門店「モスバーガー」。

モスバーガーのMOSは、〝M=マウンテン(山)〟〝O=オーシャン(海)〟〝S=サン(太陽)〟の頭文字から名づけられました。人に日々の糧を与えてくれる自然への限りない愛情と、「山のように気高く堂々と、海のように深く広い心で、太陽のように燃え尽きることのない情熱を持って」生きる理想の人間集団でありたいという、創業者の願いがこの名前に込められているんですね。

これこそが、モスバーガーのバックグラウンドストーリー。そしてこのストーリーをモスバーガーは、どのように表現しているのか——。

それは、ハンバーガー専門店の常識をもくつがえすものでした。

ハンバーガー専門店は一般に〝ファーストフード〟と呼ばれ、その名のとおり「提供の早さ」が売りになっています。少しでも早く提供するために、オーダーが入る前に見こみで商品を作り置きしておくのが普通です。

ですがモスバーガーは、作り置きをしません。注文を受けてから一つひとつつくるアフターオーダー方式での提供が徹底されているのです。それはなぜか。

なぜなら「早さ」より、「人間・自然への限りない愛情」というバックグラウンドストーリーのほうを大切に考えたからです。

大切なお客様に美味しいものを食べていただくことで人間への愛情を表現し、大切なお客様に自然の恵みを味わってもらうことで自然への感謝の気持ちを表現する。そうすることへの思いを堂々と、深い心で、情熱を持って追求する。そのためにはアフターオーダー方式でなければならなかったのですね。

こうしてモスバーガーのバックグラウンドストーリーは守られています。

そしてもうひとつは、英国生まれのフレッシュハンドメイドコスメ専門店「LUSH(ラッシュ)」。まだ全国各地に店舗があるわけではないのですが、とくに女性からの圧倒的支持を受けるお店です。

店名になっている「LUSH」とは、〝緑が生い茂るさま、みずみずしい、豊潤な〟という意味。その名のとおり、お客様に「みずみずしい、豊潤な人生=ラッシュライフ」を提供することを信念として掲げています。これがLUSHのバックグラウンドストーリー。そして、このストーリーを表現するために、商品はすべて〝フレッシュハンドメイド〟にこだわります。

LUSHが取り扱っている商品はフェイスケア用品やヘアケア用品などですが、これらはどれも、直接肌に触れるもの。つまりケア用品は、肌にとっては食べ物とおなじだという位置づけなんですね。だからこそフレッシュ=新鮮さにこだわり、製造年月日、作り手名、全成分を商品ラベルに明記してあります。また、商品だけでなく、商品に貼るラベルや商品を解説するポップもすべてを手作りにして、ハンドメイド=手作りへのこだわりも徹底されています。

こうして「ラッシュライフを提供する」というバックグラウンドストーリーを守るだけでなく、スタッフたちはさらなる取り組みをしています。それは、全商品を自分で使ってみて、その効果や使い心地をとことん知りつくすこと。こうすることでスタッフ自身が「誰よりもLUSHの商品を愛している人」になろうとしているんです。

それはもちろん、お客様に最高のラッシュライフを提供できる人になりきるため。商品そのものや売り方、アピールのしかたでバックグラウンドストーリーを守るだけでなく、スタッフみずからがストーリーの一部となって、お客様と一緒に真のラッシュライフを追求ているんです。

こうした積み重ねで、一度お店を訪れたお客様は「もっとラッシュを知りたい!」と強く引き込まれ、コアなファンを増やすことができているんですね。

このように店名には、このお店がどうありたいか、どうなってほしいかという想いがぎっしり詰まっていることがあります。

ただ、すべてのお店がこのようになっているわけではないのも事実。店名を地名やオーナーの名前からつけているお店だってありますし、ユニフォームだって見た目重視で選ばれることもあります。

だからといって「じゃあ私が意味をつくるぞ!」というのは、オーナーでないと難しいでしょう。

「それじゃあやっぱり私のお店にバックグラウンドストーリーなんてないじゃん……」

いいえ、店名やユニフォームにたいした意味がないからといって、そこで終わりではありません。

お店の「台本」とは、お店にお客様がいらしたとき、店内にいるとき、そして帰られるときに、どんな気分でいてほしいか?ということなんです。

ウキウキと楽しい気分でいてほしい、厳かな気分になってほしい、家にいるようにくつろいでほしい、非日常的な高揚感を楽しんでほしい、落ち着いた雰囲気でリラックスしてほしい……。アナタのお店にも、きっとそういった「思い」があるはずです。

一見これといって特徴的なことのないお店でも、そこにサービスパーソンとお客様がいる以上、お店には「人の気持ち」という要素が必ず入ってきます。

その「気持ち」を感じ取ってほしいのです。それこそが、アナタにとっての台本になるはずだからです。

そのためには、まずはアナタのお店に興味を持ってみましょう!

なんで、この名前なんだろう?

なんで、このユニフォームなんだろう?

なんで、この商品を扱っているんだろう?

お客様に、どんな気持ちでお店に来てほしいかな?

お客様に、どんな気持ちでお店で過ごしてほしいかな?

お客様に、どんな気持ちを持ってお店から帰ってもらいたいかな?

こうした興味を持って、先輩やオーナーの話を聞いてみたり、自分なりに考えてみることで、アナタのお店の「台本」は必ず見つかります。

台本が見つかったら、次はその台本にのっとって、どんな「ショー」を演じるかを考えてみましょう。その「ショー」には笑顔が必要か、必要だとしたら、どんな笑顔か。お辞儀や挨拶は、どうしたほうがより台本に合うか。笑顔やお辞儀のほかに台本を表現できる「ショー」はないか……。

こうしてアナタの接客サービスが「ショー」に変わった瞬間、サービスは「ロボットのようにやらされている作業」ではなくなります。アナタ自身が接客サービスをもっと楽しめるようになるのです。

そして、サービスパーソンであるアナタ自身が接客サービスを楽しむことで、お客様にもアナタが表現したいお店の「ショー」が伝わるようになります。すると、お客様も「ショー」を楽しんでくれるようになります。

アナタがお店のキャストとなって「ショー」を楽しむこと。それこそが、お客様にいちばん伝わるサービスになるんです。