これからいくつかのバックグラウンドストーリーをご紹介していきますが、まずは大きくテーマランドから見ていきましょう。施設単位の細かいストーリーはそのあとで。
ご紹介する場所は、ギャグとユーモアがあふれる街「トゥーンタウン」です。ここにはミッキーと仲間たちが住んでいる——、という設定になっています。
ちなみに「トゥーン」とはマンガやアニメーションを表わす「カートゥーン」という言葉から取ったもので、主にキャラクターたちのことを指します。
トゥーンタウンが東京ディズニーランドにできたのは1996年。パーク内の7つめのテーマランドとしてオープンしました。
トゥーンタウンが「ミッキーたちの住む街」なら、この街ができるまで、ミッキーたちはどこにいたのでしょうか。
ミッキーは、映画界にデビューしてすぐ大人気となりました。次から次と出演依頼がきて、毎日のように撮影があったため、ずっとスタジオ生活を余儀なくされていたのです。
しかし、いくら大人気映画スターとはいえ、朝から晩まで毎日スタジオにいたのでは、リラックスも気分転換もできません。心の安らぎが欲しいと考えたミッキーは、1930年代の初めに、映画の都・ハリウッドの郊外にトゥーンの街「トゥーンタウン」をつくり、そこで暮らし始めました。するとやがて、ミッキーを慕う他のトゥーンたちもそこに住むようになりました。
1983年に東京にディズニーランドが完成したときは、ミッキーはパーク内の秘密の場所に住んでいました。しかしパークを訪れたお客様から「ミッキーに会えなかった」「一緒に写真を撮れなかった」という手紙がたくさん届くようになったのです。
ミッキーはとても悩みました。お客様に楽しんでほしいと心から願っているのに、悲しませてしまっている……。
ミッキーはトゥーンの仲間たちを集め、どうしたらいいかを一緒に考えました。そこで出たアイデアが、
「トゥーンタウンを東京ディズニーランドにもつくって、お客様にもトゥーンタウンで遊んでもらえるようにしよう!それに撮影スタジオをミッキーの家につくっちゃえば、撮影の合間にもお客様と会うことができるだろう!」
というもの。トゥーンたちは全員この意見に賛成し、こうして晴れてトゥーンタウンが東京ディズニーランドにもでき、お客様にも開放された——、というわけです。
はぁ〜、ミッキー最高!!
って感想で終わっちゃ困ります。たしかにミッキーの優しさには心打たれますが、ここで私がいわんとしているのは、そっちじゃありません。
イメージしてください。
アナタは今日からトゥーンタウンのキャストになりました。
トゥーンタウンには、いま紹介したバックグラウンドストーリーがあります。
このストーリーを聞いたアナタは、どんなキャストになろうと思いますか?
こういうバックグラウンドストーリーのあるトゥーンタウンにふさわしいキャストの姿とは、どういうものでしょうか。
ぶっす〜と仏頂面で突っ立っている姿を想像しますか?
それとも、ニコニコ笑顔でお客様に話しかけている姿を想像しますか?
アナタがイメージしたキャストの姿、それはきっと後者、ですよね。
ミッキーがどんな想いでトゥーンタウンをつくったのか。それは、お客様に喜んでほしい、楽しんでほしいという気持ちです。
だとすれば、トゥーンタウンのキャストが笑顔もなくつまらなそうにいることは、ものすごく不自然です。キャストもトゥーンタウンの住人のひとりなんですから。
あっ!
勘のいいアナタは気がつきましたね。
そうです。これで笑顔に「理由」ができましたよ!
トゥーンタウンでは笑顔が必要ですが、ただ笑っていればいいのではありません。
トゥーンタウンをつくったミッキーの想いを受けて、それをお客様に伝えるのが、この街のキャストの役割。つまり、「お客様に心から喜んでもらい、楽しんでもらう」ための笑顔が必要なんです。
このように、バックグラウンドストーリーがあると、「これはこういうショーなのだ」と行動に理由をつけて行なうことができます。「私が、お客様にサービスを提供する」ではなく、「ここは笑顔が必要な場面で、私は役者としてその役を演じる」だから、キャストは一人ひとりの感情や気分でサービスをぐらつかせることなく、いつも笑顔で、明るく、楽しそうに仕事をしているように、アナタの目に映るんですね。
これが、私がこの章でお伝えしたい、サービスという仕事を楽しむためのコツのひとつです。
「えぇーと、自分のお店のストーリーって何だろう?そんなの、やっぱりないよー」
まぁまぁ、あせらずに。
まずは「ディズニーランドにバックグラウンドストーリーが存在する意味」を理解してもらえればOK!大丈夫です。
さて、場所を移動して、別のバックグラウンドストーリーをご紹介しましょう。
今度は「もし自分がここで働くことになったら」と想像しながら聴いてくださいね。
サンリオピューロランド、東京ディズニーランドの元キャスト。
「まずは自分からサービスを楽しみ、お客様へその楽しさを伝えることで、お客様から感謝の気持ちが返ってくる」=『ハッピーサイクル』という考え方を組み立て、研修、講演、コンサルティングや書籍の執筆を通じて、全国のサービス現場へ広げる活動を行っています。おかげさまで、現在までにハッピーサイクルの考え方を学んだ受講生の人数は、延べ2万人を超えました。