突然ですが、質問です。アナタがいまのお店で働くことになって、いちばん初めに教わったことって何ですか?レジの打ち方、注文の取り方、商品の陳列や整理、あとかたづけ、とかですかね?
そうですよね、まずはそうした基本的な動き方や作業がわかっていないと、お仕事できませんものね。
ほかにも教わりませんでしたか?たとえば接客サービスについて、「お客様がいらしたら、笑顔で明るく挨拶してくださいね!」「お辞儀の角度は45度、商品を買ってくれたお客様には90度で!」とか。
きっと先輩スタッフが実際にやるのを見せてもらいながら、トレーニングを受けたことと思います。
サービスの仕事は、基本作業にしろ接客のしかたにしろ、実際にお店で働いている先輩や上司から動きそのものを見ながら具体的に教わることができるので、実践的でわかりやすいし、現場ですぐに使えるのが学校の勉強とは違ってイイですよね!
そうやって最初に教わった作業は、毎日の仕事のなかで繰り返し行なうことで、だんだんとアナタの頭に、体に、定着してきます。初めのうちは「こういうときは、こうしなくちゃ」って考えながらでないと動けませんが、そのうちに無意識でも動けるようになってきます。
ここまで来ると、ルーティンの作業はおてのもの、日々の仕事も流れるようにこなせるようなっているでしょうし、次第にイレギュラーなことにも対応できるようになり、自信もついてくるはずです。
はい、仕事に慣れてきましたね、このお店ではだいたいのことに対応できるゼ!って。
仕事に慣れるのはいいことです。慣れることでミスや失敗が少なくなりますし、作業も効率的にできるようになるので、少ない時間でより多くの仕事ができるようにもなるでしょう。
その一方で、この〝慣れ〟ってやつは、実はものすごーく厄介なものでもあるんですよ。
〝慣れ〟というのは極端にいえば、そのことについては目をつぶっててもできるような状態になっちゃうってことです。
目をつぶっててもできちゃうのであれば、目を開けてるときはほかのことやもっとレベルの高いことに力を使えばいいのですが、人間はラクをしたがる生き物です。せっかく慣れてきた環境で、わざわざ大変な思いはしたくない!というのが本音ですよね。
〝慣れ〟の悪魔が強力なダークパワーを発揮するのはここからです。
作業に慣れてきたアナタは、楽々と軽やかに、お店の仕事をこなしていきます。
とくに「商品が少し減ってきたから補充しよう」とか「燃えるゴミはこっちで、燃えないゴミはこの箱に入れよう」「明日からイベントが始まるから、お店が閉まったらこのポスターを準備しよう」というような、理由が比較的ハッキリとわかりやすい作業は、決められたとおりに進めていくことができます。
しかし、接客サービスのほうはどうでしょうか。
最初に教わった、「お客様がいらしたら、笑顔で明るく挨拶してくださいね!」「お辞儀の角度は45度、商品を買ってくれたお客様には90度で!」というやつも、悠々とこなしちゃいますか?
たぶん、そんなことないんじゃないかと思うんですよ。
なぜなら、作業と違って、理由がハッキリしていないからなんです。
なんで笑顔で明るく挨拶しなくちゃいけないんでしょう?
お辞儀の角度は45度で、商品を買ってくれたお客様には90度なのはどうして?ていうか、そもそもなんで角度が必要なわけよ?
その理由、アナタは知っているでしょうか。先輩からトレーニングを受けるときに、そうする理由も教わりましたか?
きっとね、教わっていないことのほうが多いんじゃないかと思います。
理由もわからず、ただ教えられたことをなんとなく漠然とこなしていると、ついに〝慣れの悪魔〟がアナタの耳元でささやき始めます。
「なんで疲れてるのに笑顔でいるの?べつにいいんじゃないのぉ〜」
「お辞儀の角度なんて誰も見てないよ!」
「やらなきゃいけない理由がないんだからさ、やめちゃえよ〜」
こうやって、アナタをダークサイドに落とそうとしてくるのです。恐ろしいことです。
うぁぁーー!ダークサイドに落ちてはならんー!!
とはいえ本当のところ、そうですよね。理由もなく笑顔でいたり、明るくしたり、お辞儀をするなんて、大変なだけです。恋人とケンカしたり心配事があったりで笑ってる場合じゃない気分のときだってありますし、腰が痛くてお辞儀するのがちょっとつらいことだってあるでしょう。
できることなら笑いたくない、お辞儀したくない、だけど上司の目があるから怠けるわけにもいかない……。
こうして「笑顔」や「挨拶」といった接客サービスの重要な要素が、アナタにとってますます「おもしろくないもの」に変換されていってしまいます。
でも、アナタが「おもしろくない」と思いながらしている「笑顔」や「挨拶」を受けたお客様は、はたしてどう感じるでしょうか。それをね、考えてほしいんです。おもしろくなさそうな笑顔や挨拶で、お客様が喜んでくれるかっていうことを。
お客様も人間ですから、感じてしまいます。
「つまんなそうにやってるなぁ」
「やる気あるのかな」
「なんか態度悪いな」
と。アナタ自身、プライベートでどこかのお客様になったとき、そう感じさせるスタッフを見たこともあるんじゃないでしょうか。まさしくそれです。
ここで思い出していただきたいのが、アナタとおなじく接客サービスの仕事をしているディズニーランドのスタッフたちのこと。彼らって、なんだか妙に楽しそうにお仕事してると思いませんか。いつでも笑顔で、明るく、楽しそうに。
え?「それはディズニーマジックにかかっているから」ですか?そうですねー、当たらずとも遠からず、という感じですかね。
なぜディズニーランドのスタッフは、いつも楽しそうにお仕事ができるのか。そこには秘密があるんです。もちろん、ディズニーランド内だけでしか使えない秘密なんかじゃありませんよ。アナタのお店でも「サービスの魔法」が使えるようになる秘密です。
どんな秘密か、気になりますよね。
この章では、その秘密をいただきにいきます。しっかりついてきてくださいねー!
サンリオピューロランド、東京ディズニーランドの元キャスト。
「まずは自分からサービスを楽しみ、お客様へその楽しさを伝えることで、お客様から感謝の気持ちが返ってくる」=『ハッピーサイクル』という考え方を組み立て、研修、講演、コンサルティングや書籍の執筆を通じて、全国のサービス現場へ広げる活動を行っています。おかげさまで、現在までにハッピーサイクルの考え方を学んだ受講生の人数は、延べ2万人を超えました。