さて、ここまでいろいろとお話ししてきましたが、この章で一貫してお伝えしたかった内容、ちゃんとアナタに伝わっていますでしょうか。
ここで、この章でお伝えしてきた「ディズニーランドから得られた気づき」を、ちょっとおさらいしてみましょう。
エントランスのレッドカーペット——
入り口の工夫は、お客様のためであるのはもちろんだけれど、いちばんの理由は「大切なお客様をお迎えするんだ」という心構えをスタッフが持てるようにするためである。
ワールドバザールの天井や窓や遠近法——
お客様は、「工夫していること」よりも「手抜きしていること」のほうに敏感に気づいてしまうものである。
シンデレラ城の遠近法——
本物にこだわるのもよいけれど、本当に大切なのは「お客様をどのように迎えたいか、どんな気持ちになっていただきたいか」を考え、それを表現し、提供し続けることである。
カルーセルの本物の金——
お客様に選ばれ愛されるお店は、選ばれるように、愛されるようにと努力しているが、その根底にあるのは必ず「スタッフ自身がお店を大切にしている」ことである。
ごく簡単におさらいしてみましたが、あらためてこれを読んで、アナタはどう感じましたか。もし「結局のところ、ディズニーランドじゃなきゃできないじゃん!」と思ってしまったのなら、もう一度、章の最初にもどって読み直してみましょう。
私は自信をもっていえます。この本では、どこのお店でも使えるお話しかしていないつもりです。否、していません!
この章を通じてアナタに伝えたかったこと、それは、
「お客様に愛されるサービス施設とは、まずいちばんに、そこで働くスタッフがその職場を愛していることが絶対条件である」
ということなんです。自分の職場を愛するスタッフであふれている施設の代表がディズニーランドではありますが、これはディズニーランドに限らず、町のレストランやショップでもおなじくあてはまる絶対条件です。
たとえば、先ほどのレストランの例を思い出してみましょう。もし案内された席の椅子がシミだらけで綺麗じゃなかったら……、というやつです。
これって、なんで綺麗じゃないんでしょうか。
もちろん、汚れやすい材質が使われているとか、洗剤使ったけどどうしても落ちなかったとか、あげればいろいろ理由はあるかもしれません。
でもね、いちばんの理由は、スタッフがその椅子を綺麗に保とうと真剣に努力していないからなんですよ。
では、綺麗に保とうと努力できない理由は何でしょう?
おそらく、綺麗にするのが面倒くさい、なんで綺麗にしなきゃいけないのかわからない、べつにアタシが座るわけじゃないし……、といったあたりだと思います。だから綺麗にできないし、大切に扱えない。
これってつまり、「お客様が座る椅子なんて、べつに汚れてたってボロくたっていいじゃん」と思ってるってことですよね。
その根っこにあるのは「その椅子は、大切なお客様が座るものである」という認識がないということ、さらにその根っこは「お客様を大切だと思っていない」ってことです。
こうやって、綺麗じゃない椅子は誕生します。
その結果、お客様はその椅子を見てゲンナリするわけです。
「あー、ほかの店にすればよかった」と。
そんなお店をお客様が愛してくれるはず、ありませんよね。
反対に、椅子が綺麗なお店は、スタッフが椅子を「大切なものである」と認識しているから美しさが保てます。「大切なお客様が座る、大切な椅子」だから、大切に手入れをし、綺麗に保とうと努力します。
そうやって綺麗に保たれた椅子は、お客様も汚さないように気をつけてくれます。スタッフが大切にしている「思い」が伝わって、お客様もその椅子を好きになってくれます。
これは、椅子に限った話ではありません。テーブルだって商品棚だってトイレや入口の扉だっておなじです。そこで働くスタッフが設備や備品を大切にし、愛情をもって扱っているお店を、お客様も愛してくれるんです。
それに、スタッフがお店を愛していると、スタッフはお客様に対し自信を持って接することができます。なんてったって自慢のお店です。たとえば席にご案内するときだって、
「お客様、どうですか、その椅子、素敵でしょ。座り心地もいいでしょ。その素敵な椅子に座ってゆっくりしてってくださいね」
って思いながら案内できます。
こんなふうにスタッフが気持ちよくお客様を歓迎することができるから、迎えられたお客様も気分よくなれるんです。
だいじょうぶですか?ここまで、伝わってます?
だから、まずアナタにやっていただきたいこと、それは、
「アナタのお店にある椅子もテーブルもカウンターもポップも看板も入り口も天井も、一度全部を〝愛おしいな〜〟という目で見てみてください」
ということなんです。
そうすると、いままで「愛せていなかった部分」が見つかるかもしれません。
もし見つかったら、なぜ愛せないのかを考えてみましょう。それが「お客様に愛されていなかった原因」になっているかもしれないんです。
ディズニーランドにある入口のレッドカーペットも窓の文字も、お城の遠近法や本物の金も、もしそこで働くスタッフがそれに何も感じていなかったら、全部無意味です。
でもディズニーランドには、それを誇りだと思えるスタッフがたくさんいます。誇りに思うスタッフがいることで、初めてその存在の意味や価値がお客様に伝わるんです。
ですからまずは、アナタが「お店のなかでいちばんお店を愛している人」になってください!それがアナタの心の中にディズニーランドをつくる第一歩になるはずです。
「お客様に愛されるサービス施設とは、まずいちばんに、そこで働くスタッフがその職場を愛していること」が大切ですが、これは上の立場の人が出来ていないと浸透していかないのも現実です。ちょっとした物の扱いや言動を、部下はしっかり見ているもの。特別なことをしなくても、そういった一挙手一投足を丁寧にする姿勢は、崩さないようにしたいですね。
コメント