第1章

木馬の棒が本物の金だと知っているのは誰?

天国のウォルト・ディズニーに「あなたの思いは、いまも生きている」と伝えるために、シンデレラ城のいちばん高い塔の屋根は本物のゴールドで塗られました。

せっかくなので、ゴールドつながりでひとつ、お伝えしたいことがあります。

シンデレラ城を通り抜けると、ディズニー映画の主人公に出会える夢と童話の世界「ファンタジーランド」が広がっています。そこにある、キャッスルカルーセル(回転木馬)に注目してみましょう。

シンデレラ城の真うしろにあるキャッスルカルーセル。このアトラクションでは、白馬に乗ると必ず棒につかまるのですが、この棒は何色でしょうか?

そうです、そのまさかですよ。その棒は金色で、そこにも本物の金が使われているんですね〜。ひゃー、たまげたタマゲタ!次に乗ったときはほっぺたスリスリとかしたくなっちゃいます。

……じゃなくて、もしかして、このことは知らなかったんじゃないかなと思いまして。そりゃ知りませんよね、普通。

あら、でもそれって、またしてもおかしな話です。

お客様はその棒が本物の金だなんて知らないのに、なんでわざわざ本物を使ったんでしょうか。もしかして、お客様のためじゃないってこと?

それは違いますよね。

入口のレッドカーペットの話を思い出してみましょう。

「お客様が床の色に気づいていなくても、働くスタッフが床の色の意味を知っていれば、『パークに遊びにくるすべてのお客様がVIPなんだ』という心構えをもって、お客様を歓迎することができる。その歓迎を受けたお客様は、床の色がレッドカーペットを表現していることなんて知らなくても、『歓迎されている!』と感じることができる」

でしたよね。
キャッスルカルーセルの金の棒も、入口のレッドカーペットとおなじ役割を果たしているんです。

私たちサービスパーソンは、お客様の前ではいつでも「お客様をお迎えするにあたって、いちばん大切にしなければならない思い」を表現し続けなければなりません。

たとえ、お仕事の前の晩に恋人と大げんかしようと、飲み過ぎて二日酔いだろうと、お客様の前で「今日はなんか調子がでない」という気分を出してはいけないんです。だってそんなこと、お客様には関係ありませんから。

しかし、サービスパーソンだって普通の人間です。ときには「調子でないな〜、ダルいな〜」なんて日もあります。それはディズニーランドのスタッフだっておなじ。

そんなときでも、このカルーセルの金の棒を見ると、

「あぁ、今日もこのカルーセルを楽しみにやってくるお客様がいるんだ!」

と、サービスパーソンとしての自分を思い出させてくれるきっかけになるのです。

お客様は、この「本物の金」を手にするに相応しい、大切な存在です。その大切なお客様が、お金を払ってわざわざパークに来てくれているんです。ならば最高の「本物の金の輝きと手触り」を楽しんでほしい。なのに自分がだらだらしてたら、せっかくの輝きが曇ってしまうよね——、と自分を奮い立たせることができるんですね。

もうわかってきたと思いますが、「じゃあ、そこかしこに本物の金を使えばOKかぁ!」じゃないですよ。そういう意味不明なこと言い出したら、店長もスタッフ仲間も相手にしてくれなくなります。

そうではなく、こんなふうに考えてみてください。

たとえばレストランに入ったとき、案内された席の椅子がシミだらけで綺麗じゃなかったら、どう思うでしょうか。

「あぁ、ここのスタッフはきっと、シミだらけにしながらも、この座席を丁寧に磨いているんだなぁ。汚さないようにしなきゃ」

って思いますか?もしそう思うとしたら、アナタはピュアすぎます。普通はね、

「うわ、ちゃんと綺麗にしろよ〜。あ、ソースこぼしちゃったけど、まぁいっか〜」

って思うもんです。

そう、そこなんですよ!

スタッフがお店を大切にしていないと、お客様もお店を大切にしてはくれない!
これが重要なんです。

お客様が大切にしてくれないお店に、そのお客様が次も来てくれるわけありません。
お客様が大切にしてくれないお店が、別のお客様に大切にしてもらえるはずありません。
お客様が大切にしてくれないお店が、多くのお客様に選ばれるわけありません。

お客様に選ばれ愛されるお店はもちろん、選ばれるように、愛されるようにと努力をしています。でも、そのなかでもっとも大切なことは、まずはスタッフがお店を大切にするってことなんです。スタッフが自分のお店を心から愛し、大切にしているお店が、お客様からも愛され、大切にしてもらえるお店になるんです。

美しい金も、手入れをしなければくすんできます。

ディズニーランドには毎日、何万人もの人が訪れ、何千人もの人がキャッスルカルーセルに乗り、金の棒をつかみます。そのままにしておけば当然、金の棒はくすんでいきます。

でも、いつ行っても金の棒はピカピカです。開園から30年近く経つのに、です。なぜなら、清掃のスタッフが毎日、閉園後にピカピカに磨いているからです。

その棒は、VIPである大切なお客様が触れる「金(ゴールド)」ですから、いつだってピカピカでなければいけません。ピカピカであることがお客様に対する歓迎の証であり、ピカピカに保たれていることがスタッフとしての誇りです。そしてなにより、ピカピカと光り輝く金の棒があるキャッスルカルーセルを、そういうアトラクションをもっているパークを、スタッフは大切に思っています。

だから毎日、愛情をもって手入れをします。それを続けているから、いまもピカピカなんです。そして今日もピカピカの金の棒をつかむ笑顔のお客様がキャッスルカルーセルにたくさん訪れることでしょう。

アナタのお店はどうでしょう。建物や什器、仕事に必要な道具など、大切に思って手入れをしているでしょうか。普段アナタが使うところやお客様が触れるところ、お客様がご覧になるところ、歩いたり使ったりするところはもちろん、バックヤードやストックといった、普段はあまり目につかないところにも、愛情をもって接していますか。

金の棒をピカピカに保つディズニーランドのスタッフのように、自分が働いているお店を大切に大切にしてみましょう。

川崎 真衣

こういった話は、聞くと「当たり前だよね」と思うようなことばかりなのに、いざ現場に戻ると出来ていなかったり、全スタッフに周知するのが難しかったりしますね。そんな時のためにも、ディズニー以外にも自分がよく行くお店などでどうかな?と観察して経験値をためるクセをつけましょう。

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