第1章

ショップに書かれた文字に気づいていますか

さて、今度はワールドバーザールに入っていきましょう。

あ、先に「ワールドバザールってなんだ?」について、お話ししておきますね!

東京ディズニーランドは全部で7つのエリアから構成されています。

・ヴィクトリア様式の建物が軒を連ねる古き良きアメリカの街並「ワールドバザール」
・熱帯植物が生い茂る冒険とロマンの世界「アドべンチャーランド」
・フロンティアスピリットが息づく西部開拓時代のアメリカ「ウエスタンランド」
・アメリカ河のほとりに広がる小動物たちの郷「クリッターカントリー」
・ディズニー映画の主人公に出会える夢と童話の世界「ファンタジーランド」
・ギャグとユーモアがあふれるミッキーと仲間たちの住む街「トゥーンタウン」
・未来と冒険が待っている宇宙と未来の世界「トゥモローランド」

この7つです。これらのエリアは、それぞれ異なったテーマに基づいてつくられているので「テーマランド」と呼ばれています。

テーマランドのなかでも入口にいちばん近いのが、ワールドバザール。ここに入ると、20世紀初頭に実際あった古き良きアメリカの街並を体験することができます。
また、ここにはショップやレストランが数多くあるので、パークでお土産を買う人は、1度は必ず立ち寄ってしまう場所です。

この施設、世界各国すべてのディズニーテーマパークに存在しているのですが、「ワールドバザール」という名前がついているのは日本のディズニーランドだけです。他の国では「メインストリートUSA」という施設名になっています。

なんで日本だけ違うのか?というと、それにはちゃんと理由があります。

ワールドバザールに入ったら、上を見上げてみてください。ガラス張りの天井があることに気づくと思います。この天井、「メインストリートUSA」にはありません。日本のディズニーランドのためだけに、特別に用意されたものなんです。

それはなぜかというと、そう!日本って雨がものすごく多いですよね。それなのに、もしワールドバザールに天井がなかったら、雨の日はお土産を買うのにもひと苦労、楽しい思い出も雨と一緒に流れていってしまいます。

そこで「メインストリートUSA」にひと工夫加えて、日本オリジナル仕様の「ワールドバザール」にした、というわけなんです。

大掛かりな工夫は天井だけではありません!ワールドバザールの建物は、遠近法を利用して、奥行きや高さを錯覚するようにつくられているんですよ。

たとえば、建物は上のほうにいくほど縮尺が小さくなっていたり、メインストリートはエントランスからシンデレラ城へ近づくにしたがって道の幅がどんどん狭くなっています。
そうすることで、屋根があっても閉塞感を感じずに、のびのびとショッピングを楽しむことができるようになっているんですね。

さらに細かいところでは、ワールドバザールに軒を連ねる建物の、上のほうにある窓に注目してみてください。たとえばイーストサイド・カフェというレストランの上には「旅行代理店」や「法律事務所」「火災保険事務所」があり、ペイストリーパレスというお菓子屋さんの上には「ファッションの専門学校」といった文字が書かれています。

このように、窓ガラスに書かれた文字をよく見てみると、ワールドバザールがアメリカの街並をそのまま切り取ってきたことを示すような工夫が凝らされています。

こうした工夫そのものは、ディズニーランドをテーマにしたビジネス書などにもよく書かれています。でも私がお伝えしたいのは、

「だからディズニーはすごい!あなたの店でもディズニーみたいに細かいところにまで凝りまくれ!!」

ということではありません。

たとえばアナタがパークで遊んでいるときに、天井や遠近法、窓の文字に気がつくでしょうか。そうですよね、入口のレッドカーペットとおなじで、いわれないと気づきませんよね。そういうもんです。

それに工夫というものは、気づいてもらえないとダメなわけではありません。むしろお客様が気づかないくらい、自然に存在していることのほうが大切です。

でも逆に、もしワールドバーザールに天井がなかったらどうでしょう。あるいは遠近法も使われておらず、窓にもなにも書いていなかったとしたら、どうなると思いますか?

「天井があったら、雨が降ってても、お土産をもっといろいろ見られるのに」
「なんかここだけ妙に窮屈な感じ」
「建物の上のほうは倉庫なのかな」……

と、いわれなくても「気づいてしまうお客様」が必ず出てきます。

つまり私がいいたいのは、「お客様は意外にも、工夫していることよりも、手抜きしてしまったことのほうを敏感に感づいてしまうものだ」っていうことなんです。

たとえばアナタもどこかのお店に行ったとき、掃除が行き届いた綺麗なところよりも、ホコリや汚れが溜まった部分のほうがすぐに気がつきませんか?「うわ!ちゃんと掃除すればいいのに」って。

働いている人の身だしなみについても、身綺麗にして清潔なユニフォームを着ている人よりも、「おいおいおい、そのピアスはデカ過ぎだろ!」「エプロン汚れてるよ!」っていう人のほうが、すぐ目に留まりますよね。

そういうことなんですよ。

大事なことなので、もう一度いいますね。

「お客様は、工夫していることよりも、手抜きしてしまったことのほうを敏感に感づいてしまう」

だからディズニーランドは細かいところまで「手を抜かない」んです。天井も遠近法も窓の文字も、「細かいところにまで凝った工夫」が大事なのではなく、「細かいところにまで手を抜かない」という点に大きな意味があるんです!

アナタのお店はどうでしょう?ディズニーランドのようにお金をかけて「細かいところまで凝りまくる」ことは難しくても、スタッフとして「細かいところにまで手を抜かない」ことはできるのではないでしょうか。

たとえば床は、お客様が大切なモノをうっかり落としてしまっても大丈夫なくらいピカピカですか。隅っこのホコリを「このくらい、いいか」と見ないフリしていませんか。
身だしなみはどうでしょう。ユニフォームや髪形、メイク、爪など、隅から隅まで清潔感が感じられますか。
あるいは、商品が雑に扱われていたりしませんか。ラベルの向きや順番といった置き方、並べ方、さらにはお客様への渡し方など、細かいところにも手を抜かず、丁寧に扱っているでしょうか。

長く働いていると、どうしても「このくらい、いいか」とつい手を抜いてしまうことが増えてきます。それが続くと、ちょっと手を抜いた状態が当たり前になってしまいます。

でも、いまアナタのまわりにある「当たり前になってしまった景色」が、お客様にとっても当たり前かというと、必ずしもそうではありません。

それを知るために、ときどきは「角度」を変えて見てみましょう。

たとえば、いったん店から出て、お客様の入ってくる入口からお店に入ってみる。
お客様とおなじ動線で店内を歩き、お客様とおなじように商品を選びながら見てみる。
お客様が座る椅子に座り、お客様とおなじ目線の高さで店内を見てみる。

こうして「お客様の視線・動線」で見ることで、お客様にとって「当たり前ではない」部分に気づくきっかけになります。

そして「当たり前ではない」部分に気づいたら、「当たり前」になるように手を抜かずにきっちりと行動にうつすこと。

この繰り返しから、「細かいところにまで手を抜かない」というディズニーのやり方・考え方が、アナタの心の中にも定着します。それが、あなたの心にディズニーランドをつくることにもつながるのです。

川崎 真衣

最近は身だしなみも、かなりフレキシブルになってきましたね。だから自由に個性を表現する、という考えも素敵ですが、「その身だしなみで何が伝わるのか?」を考えると、お客様にとっても、お店にとっても、“ちょうどいい”が見つかりますよ。

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