第1章

知らないうちにVIPにされているお客様

「お客様は神様です」

サービスの仕事をしていると、よくいわれる言葉です。でも私は、そんなふうには思っていません。

もちろん、神様でなくともお客様はお客様。とても大切な存在です。サービスパーソンにとって、お客様がいなければ、すべての話が成立しません。当たり前ですけど。

お客様がいるから、サービスパーソンである私たちは喜びを感じることができます。
お客様がいるから、サービスパーソンとして仕事のやりがいを感じることができます。

そんな大切なお客様に「大切に思っています!」という気持ちを、アナタはどのように伝えていますか。

「大切ですっ」と言葉で表現?ちょっとした告白みたいで恥ずかしいですね。
ジーーっと目線で訴える?これはむしろ逆効果になりそうです。

ところで、ディズニーランドでは「お客様を大切に思う気持ち」をどのように表現しているか、ご存じですか?あ、知っていても聴いてください。

ディズニーランドでは、さまざまな方法でお客様に「あなたは大切な存在です」という気持ちを伝えています。なかでも、それをもっともよく表現しているのは入り口です。
ディズニーランドのエントランスの床の色は濃いグレーなのですが、実はお客様が通る入り口のところだけ、赤く塗られているんです。

なぜ「赤」なのか。この意味、おわかりになるでしょうか。

ここでちょっとイメージしてください。「赤色の床」から連想できること……赤い床、赤い地面、赤い絨毯……。

そう、レッドカーペット!
カンヌ映画祭やアカデミー賞授賞式などの映像で見かけるアレです。

では、レッドカーペットの上を歩くのはどんな人?
はい、スターや有名な映画監督などのベリー・インポータント・ピープル、いわゆる「VIP」と呼ばれる特別な人ですよね。

ご存じの方も多いでしょうが、ディズニーランドには入り口が一か所しかありません。ですのでパークに遊びに来られたお客様は、みんなこの入り口を使います。
つまり、園内に入るには必ず、赤色の床の上を歩かなければならないんです。

勘のいい方はもうお気づきですね。そうです。入口の床が赤いのは、

入り口を通るお客様=すべてのお客様は「レッドカーペット」の上を歩くに値する「VIP」である!

という意味なんです。

「私たちは、すべてのお客様をVIPとしてお迎えしますよ」と、言葉でも目線でもなく、まずは入り口から「歓迎」と「お客様を大切に思う気持ち」を表現しているんですね。

「いいこと聞いた!うちも床を赤く塗ってお客様に歓迎の気持ちを伝えよう!」

と思ったアナタ!ちょっと待ってください。ここでいいたいのは、「床は赤色にしたほうがいい」ということではありません。

重要なのは、
「ディズニーランドの入り口の床が赤いという事実を、アナタは知っていましたか?」
ということ。

実は、ほとんどのお客様は、入口の床が赤いということを知りません。今日もパークには何万人というお客様が遊びに来ていることでしょうが、知っているお客様は1%にも満たないかもしれません。

「それじゃ伝わってないじゃん!」

そうなんですよ。せっかく床を赤くして「大切に思う気持ち」を表現しているのに、お客様がそれに気づいていないんじゃ意味がないって、普通はそう思いますよね。

ここで、ちょっと見方を変えてみましょう。

入り口の床が赤いのは、「すべてのお客様はVIPである」というディズニーランドの思いを表現しているのだということを、お客様は知りません。

では、この事実を知っているのは誰でしょうか?

正解!そのとおり!!
働いているスタッフは知っていますよね、入口の赤い床が「お客様を大切に思う気持ち」を表現しているんだということを。

実はこれが、ものすごく大切なことなんです。

たとえお客様が床の色に気づいていなくても、そこで働くスタッフは知っています。それが「パークに遊びにくるすべてのお客様は、レッドカーペットの上を通るに値するVIPである」というメッセージであることを。

パークの床がメッセージを発していることを知ったスタッフは、自分もそのメッセージにふさわしい行動を取ろうと考えます。そう、「すべてのお客様はVIPである」という心構えをもって、お客様をお迎えしようという気持ちになるのです。

その心構えは、お客様にも伝わります。その結果、お客様は、より強く「私は歓迎されている!」と感じることができるんです。

つまり、床が赤色であることでまず最初にスタッフの意識が変わり、それがお客様へと大きく影響していき、お客様の満足感が高まる結果へとつながるんですね。

ディズニーランドには、ほかにもこういった工夫がたくさん存在しています。もっと知りたいですよね?

これから、いくつかの例をご紹介していきますが、大切なのは「どんなことをやっているか」ではありません。そのうしろにある「なんのためにそうしているんだろう?」を考えることですよ。

それでは、いってみましょー!

川崎 真衣

施設のリニューアルに伴い、現在のレッドカーペットは「赤いレンガ」になっています。それでもちゃんと赤が使われているので、今も変わらず、思いを感じることが出来ますね。

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